六本木で時計が4
そんなある日のこと。佳代子さんが息をきらせて帰ってきました。
「お父さん、お父さん!」
「何だよ、うるさいなあ」
「見つかったのよ、時計がッ!」
「時計って?お前の時計が?!」
「そうよ。ほらッ!」
「お、よかったなぁ。佳代子!じゃ、盗まれたんじゃなかったのか?」
「そうよ。今日ね、もう一度、あの店に行って聞いてみたの。そしたら、カウンターの下の隙間に落ちてたんですって。何日か気づかなかったんだけど、それをね、バイトをやっていた人が掃除のときに見つけてくれたらしいの!台湾から来た留学生の人だって。店が預かってくれてたの」
「そうだったのか」
「彼、もう台湾に帰っちゃってるそうだけど、彼の知り合いに住所教えてもらったの。これから手紙出すわ」
「うん、そうだな」
佳代子さんは彼の誠実さに感謝する手紙を書きました。お父さんも一言その手紙に書き添えてくれました。
「(謝々(シェイシェイ)」
一週間後、彼から返事が来ました。彼の書いた、たどたどしい日本語を佳代子さんはお父さんと何度も読み返しました。
そしてまた、佳代子さんは習い始めたばかりの中国語で、彼に手紙を書いてみたそうです。
「お父さん。マクドナルドって中国語でなんていうか、私覚えたよ」
「なに?」
「マイトンロー」
「お~父さんも、会社で使わせてもらうよ」